遠視性乱視のレーシック治療について
ひとくちに「ものが見えづらい」といっても、その原因はさまざまです。遠くが見えにくい「近視」がもっとも知られていますが、「乱視」や「遠視」もまた、ものが見えづらい状態の原因です。また、これらを併発している場合もあります。
なかでも、遠視と乱視を併発させている「遠視性乱視」は、子どものときに診断を受けることが多い症状です。先天性の場合もあり、レーシックでの治療は可能なのか?という疑問を持つ人が少なからずいます。
ここでは、そうした疑問について、わかりやすくお答えしていきます。
遠視性乱視って何?
「乱視」という言葉は比較的よく知られていると思います。近視の矯正のために、メガネやコンタクトレンズを購入する際などの視力検査で、「少し乱視が入っています」と言われた経験はないでしょうか?
この「乱視」のなかにも、遠視と併発している場合があり、この状態を「遠視性乱視」といいます。また、近視と乱視を併発している「近視性乱視」という状態も存在します。これらは見え方も違えば、原因も違います。まずはこの2つの違いから説明していきます。
遠視性乱視と近視性乱視
まず、乱視とはどういう状態か、どういった見え方になるのかについてご説明します。乱視は目のレンズである角膜や水晶体の形がゆがんでいる状態です。近視と違うのは、ものとの距離にかかわらず、ぼやけて見える、つまり、どこにもピントが一点に合いません。実は多くの人が乱視の要素を持っているのですが、軽度であれば矯正や治療は必要ありません。
「近視性乱視」というのは、遠くが見えづらい近視に乱視が加わり、ものが二重に見える状態です。眼精疲労などが引き起こされるケースがあります。
これに対し「遠視性乱視」は、遠視に乱視が加わっている状態です。「遠視」というと「遠くが良く見える」という誤ったイメージを持たれがちですが、遠視の見え方は「遠くも近くもぼやけてしまい、ものが見えづらい」状態です。これは主に、眼球のなかで網膜よりも後ろに焦点が結ばれてしまうことが原因で、その結果、どの距離を見てもピントが合っていません。こうした遠視の状態に乱視が加わったものが「遠視性乱視」です。遺伝などによる先天性の場合や、後天性の場合もあります。
また、遠視性乱視には、近視性乱視とは違って、単に「見えづらくなる」だけでは済まない重大な特徴があります。それは子どものときに診断される割合が多いということです。
視力の発達期間は生後すぐからだいたい6歳児くらいといわれており、6歳くらいまでに「最大矯正視力の向上」は、ほぼ停滞してしまいます。ですので、この間の遠視性乱視を放置すると、視力の発達に障害をきたしかねず、視力の発達が止まってしまい「弱視」になることもあります。生涯にわたって日常生活に支障が出る可能性があるということです。
しかし幼児期は、本人が「ものの見え方」を言葉で説明することは難しいものです。そのため、お子さんの行動をよく観察することが大事です。転びやすかったり、お絵かき、読書などへの集中力が続かなかったりするということが多い場合には、遠視性乱視が疑われるため検査をおすすめします。
多くの自治体では3〜4か月健診、1歳6か月児健診、3歳児健診を実施しているので、そういった機会を積極的に利用しましょう。
遠視性乱視にみられる症状
遠視性乱視には次のような症状が伴います。まず、日常的に全体がぼやけて見えるため、遠くか近くのどちらか、とにかくどこかにピントを合わせようと常に目が働き、目にかかる負担が大きくなります。その結果、目が疲れやすくなってしまい、眼精疲労からくる頭痛や肩こりといった症状も現れやすくなります。
また、先にも触れましたが、遠視性乱視の診断を受けた子供は、幼い頃から視界のぼんやりした状態に脳が慣れるといった症状に陥ってしまいます。そうならないためにも、例えば3歳のときに遠視性乱視が見つかったとすれば4歳、5歳、そして最大視力の向上がほぼ止まってしまう6歳ごろまでに矯正・治療を行い、治療を完了する必要があります。
コンタクト?メガネ?遠視性乱視の主な矯正方法
このように見え方も特徴的で、かつ幼児期に診断されることが多い遠視性乱視ですが、視力回復のための矯正には様々な方法があります。
まずはメガネです。特に子ども、9歳未満の弱視治療用メガネには保険が適用される場合もあります。特に幼児期に遠視性乱視と診断された場合には、早めにメガネで対処しなければ、視力の発達に大きな影響を与えることになります。
また、コンタクトレンズを使用するという方法もあります。最近では遠近両用のコンタクトレンズにおいて、ハードコンタクトをはじめ、ソフトコンタクトレンズも販売されています。また一部では、遠近両用に加え乱視の補正も可能なコンタクトが出てきていますので、これらを活用する方法もあります。
いずれの方法にしても、年齢や目の状態によって効果が違う場合がありますので、専門医に相談したほうが良いでしょう。
近視、遠視、乱視の全部が「屈折異常」
ここまで近視性乱視と遠視性乱視の違いや見え方の違いなどについてご紹介してきましたが、近視、遠視、乱視を引き起こしているものは、実はひとつの同じ症状によるものともいえます。それは「屈折異常」と呼ばれるもので、目のレンズである水晶体や角膜の曲がり具合などが原因で、目の中に入ってくる光を正しく屈折させることができず、網膜上にうまく焦点を合わせられないという症状です。
まず近視は、眼球の中で網膜よりも手前に光が集められてしまい、焦点が網膜よりも手前にきている状態です。逆に遠視では、先ほども触れましたが網膜よりも後ろに焦点が合ってしまっています。また、乱視では網膜の手前と後ろの2か所にできてしまっているため、ものが二重に見えるという現象が起きています。
「オルソケラトロジー」という言葉を聞いたことがある方もいるかと思います。これは近視の治療に使われるもので、寝ている間に特殊なレンズを装着することによって角膜の形を変化させるものです。どのような意味があるかといいますと、角膜の形を正しい状態に近づけることで、目の中で正しい位置に焦点を合わせられるようにしようというものです。程度によりますが、乱視にも適応されています。
ただ、デメリットもあります。レンズの装着を継続しなければなりません。オルソケラトロジーはあくまで一時的に角膜の形を変えるものですので、レンズの装着をやめると角膜が元の形に戻る、つまり近視に戻ってしまうのです。
それでは、こうした屈折異常の治療方法として、レーシックはどうなのでしょうか?
レーシックとは、角膜の形を精密に変化させ、その状態を維持できる手術です。症状によって、ある程度まで自在に角膜の形を調整することができるといってもいいでしょう。ですので、近視や遠視、乱視、またそれらを併発している場合にも、角膜の形を変えることで正しい位置に目の焦点を合わせることが可能です。
つまりレーシックは、屈折異常を一度の手術で矯正できる方法なのです。
遠視性乱視が治療できないケース
このように様々な治療方法がある遠視性乱視ですが、注意は必要です。状態によっては治療できないケースも一部には存在します。ひとつには強度の遠視や乱視の場合です。また、先天的に遠視や乱視が強い場合には、視力が十分に発達していない弱視の状態になっているケースもあり、望む効果が得られない可能性があります。
いずれにせよ、見え方が乱視の症状だ、というだけで自己判断せずに、まずは適応検査を受けたり、医師に相談して治療の可否を決めてもらうことが大切です。
【参照】
所敬 (2014)『屈折異常とその矯正(第6版)』金原出版.
一般社団法人 日本臨床心理士会(2014)「乳幼児健診における発達障害に関する 市町村調査 報告書」
日本眼科学会「小児弱視治療用眼鏡等の療養費支給について」
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