近視は子供に遺伝する確率が高い?
さて、近視は遺伝するのでしょうか?気になる方もいらっしゃると思います。これはとても難しい質問で、「するとも言えるし、しないとも言える」というのが答えです。
ここのところ、近視の遺伝についての研究は格段に進んできています。近視と遺伝の関係についてご紹介していきます。
近視と遺伝子の関係
遺伝子解析技術の進歩にともない、近視に関する遺伝子解析は急ピッチで進んできました。多くは病的近視の遺伝子についての研究ですが、その過程で、病的近視の発症に関わっていると考えられる遺伝子が次々と見つかっています。
これまでのところ、網膜の形成に関わる遺伝子や、光を感じ取るのに必要なレチナールという物質をつくる遺伝子など、発症に関連していると考えられる遺伝子が数十個検出されています。しかし、遺伝子レベルで見たときの近視発症のメカニズムは複雑で、これまでに発見された遺伝子の働きだけでは、全てを解明するには至っていません。また、病的でない単純近視についても発症に関与している可能性がある遺伝子が複数見つかっています。
つまり、近視発症には単独の遺伝子だけでなく多くの遺伝子が関与しているため、必ず遺伝する、あるいは絶対にしない、ということではなく、近視に「なりやすい素質」が遺伝すると考えられています。
近視の発症と進行を促す2つの因子
近視の発症や進行の原因には、大きく2つあります。
一つ目は、環境です。どのような目の使い方をする生活をしているかというもので、これを「環境因子」とよびます。二つ目は、遺伝によるもので「遺伝因子」とよびます。
環境因子とは
環境因子とされるものをいくつか挙げていきます。
読書や学習など近くを見る「近業」や、屋外での活動量もまた近視との相関関係があると考えられています。子供に関する研究では近業の量が多かったり、屋外での活動時間が少なかったりすると近視になりやすい傾向がある、という研究結果が複数報告されています。
環境因子による近視発症のメカニズム
読書や学習などの「近業」が近視を促すメカニズムとして、調節が関与していると考えられています。
私たちの目は近くを見るとき、毛様体筋という筋肉を緊張させて水晶体を厚くし、ピントを合わせる仕組みになっています。このとき、一時的に眼軸が伸びることがわかっており、この状態が継続することで眼軸が慢性的に伸びている状態に発展し、屈折力とのバランスを失って近視化すると考えられています。
また、屋外活動が近視の発生や進行を妨げるメカニズムについては不明な部分がまだあります。屋外活動の時間が長くなれば近業の時間が減る可能性があるということと、太陽光の影響などがあるのではないか、とも言われていますが、まだ十分な解明には至っていません。
環境因子による近視発症の予防について
予防方法についても、様々な研究が進められています。
・正しい姿勢:座って読書などをするときは、背中をまっすぐにし、目と本の間は30センチくらい離しましょう。
・長時間の近業はしない:1〜2時間の近業のあとは10〜15分間の休憩が必要です。
・屋外活動を推奨:近業時間が短く、屋外での活動時間が長いほど近視になりにくいという研究結果が報告されています。
・ストレスの除去:ストレスによって、エンドセリンという物質の分泌が増加します。エンドセリンは、毛様体筋を緊張させる作用があると指摘されています。
・照明:通常の照明では、室内照明は300ルクス以上が良いとされています。また、机の上は電気スタンドなどを利用した照明を推奨します。
遺伝因子とは
両親の近視と子供の近視には相関関係があり、近視の発症には何らかの遺伝的要素があることは従来から知られていました。このように、生まれつき近視になりやすい性質を両親から受け継いでいることがあり、これを遺伝因子とよびます。
日本国内では、病的なものを除いた近視の症例の分析で、両親と子供の近視について、
- 両親とも正視の場合、40.0%の割合で子供が近視
- 父親が正視で母親が近視の場合、61.5%の割合で子供が近視
- 父親が近視で母親が正視の場合、62.5%の割合で子供が近視
- 両親とも近視の場合、66.7%の割合で子供が近視
という研究結果も報告されています。親が近視であるほど子供も近視になっている割合は高くなっていますが、100%というわけでもありません。
遺伝因子による近視発症のメカニズム
遺伝によって実際に目にどのような異常が出るのかは、まだ全て解明はされていません。
現在のところ、角膜と水晶体の後面の曲率には遺伝の要素が強く出ることや、眼軸長に何らかの影響があるといった研究結果は報告されていますが、そのほかの要素については明らかになっておらず、遺伝子解析の進捗が待たれるところです。
近視は遺伝もあるが、環境による原因もある
ここまで見てきたように、近視には遺伝的な要素もありますが遺伝が全てというわけでなく、環境因子と相まって発症・進行すると考える必要があります。
遺伝については、家族歴を変えることはできません。ですので、近視に関わる環境因子を一つでも多く見つけ出し、可能な限り改善することで予防につなげる必要があります。
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